「このほしの全てのいのちは、このほしのまん中に生きている」
~2003年、夏、アンゴラ。内戦を生き抜いた十代との出会いと対話~
 アフリカ南西部の国、アンゴラ。1975年の独立以来30年近く続いた内戦は、多くの戦争孤児やストリートチルドレンを生み出した。内戦終結間もない2003年夏、そうした子ども達の保護・教育施設である「子どものまち」を訪ねた。
 アフリカ、内戦、戦争孤児などというと、すぐにある特定の典型的なイメージが連想されがちではないだろうか。しかし、そのイメージはひどく観念的かつ匿名的で、そこからは人格と尊厳を備えた個々人の存在が浮かび上がってこない。他者への想像力を働かせるスイッチが入らない。
 この取材で僕は「子どものまち」に生きる彼らを、内戦の傷跡をレポートするための材料としてではなく、今まさに僕たちと同時代を生きている一個の個人として捉え、ポートレイトとインタビューによって記録した。
以上、写真集「このほしのまん中で ~アンゴラ・十代の肖像~」に収めた42人のポートレイトから14人分を選んで掲載しました。
写真集では、一人ひとりのポートレイトに、それぞれへのインタビューを添えて収録しました。
ここで、フェラン・ジョアン・ダ・コスタ君(17歳)の言葉を抜粋して掲載します。
---お名前を教えてください
フェラン・ジョアン・ダ・コスタです。みんなにはマン・フェーラって呼ばれています。
---今、ご両親は?
父は病気で死にました。いつだったかはもう覚えてませんね。小さい時のことだから。
---お母さんは?
母ですか? 母はいません。
---お母さんも亡くなってるんだ?
いえ、生きてます。でも、アンゴラにいないんです。
---じゃあ、どこにいるの?
コンゴ民主共和国にいます。
---そこに働きに行ってるってこと?
そうじゃなくて、戦争で避難したんですよ。
---今もコンゴにいるの?
はい。今もです。
---それで、お母さんとは連絡は取れてるの?
いえ、別に。
---え? じゃあ居場所はちゃんと知ってんの?
細かくどこの場所にいるかって事は知らないですよ。俺が知ってるのは戦争のせいでコンゴに逃げたって事だけです。
---でも、もう戦争は終わってるわけでしょ。もしかしたらもうこっちに戻って来てるかもとか思わない?
そうかもしれないですね。もう戻ってるかもしれない。でもそんな事わからないでしょ。
---でも、もう平和なんだから、なんか探す手段ってあるんじゃないの?
戻って来てるかどうか確かめようって事ですか? でも、そんなのどうしたらいいか分かんないですよ。
---でも今、政府とかラジオとかテレビで人探しのキャンペーンとかすごいやってるじゃない
そういうのをやろうとは思わないですね。自分の生活がしっかりしない限り、探すなんて出来ないですよ。
---え? ちょっと意味が分かんないんだけど?
ですからね、家族はコンゴで森の中の難民キャンプで暮らしてる訳じゃないですか。貧しい中で。そこに、例えばもし俺が自分の生活基盤も何もない中で家族を捜して、再会するとしますよね。向こうにも何も生活基盤がないわけでしょ。それじゃあ俺も家族も最悪じゃないですか。
---でもさぁ、お母さんと離ればなれな限り、君にとっては戦争は終わった事にならないんじゃないの?
ここにはお母さんを探して泣いてる奴なんていないですよ。ここにこうしていられるのはいい事ですよ。それに、探しに行こうと思えば、いつでも行けるんです。
 俺はもう卒業生でしょ。進路も決まっています。それでルアンダかカシトで仕事を持って、家も持って、そうなってから生まれ故郷のウイジに戻って家族を捜しても遅くはないんです。故郷の街の事は全然忘れてないですし。
 兄に、今せっかく勉強できるチャンスがあるんだから、余計な事は考えないで勉強に専念しろって言われてるんですよ。

----最近で一番うれしかった事はなんですか?
「子どものまち」をちゃんと卒業できた事が、今までで一番うれしかった事です。
 もっと最近だったら、日曜のイベントでやったサッカーの試合だね。試合をやって勝ったって事。昨日は負けたけど、今日の試合は2-0で勝ちました。
---じゃあ嫌だった事は?
嫌だったし、今でも嫌なのはやっぱり戦争ですよね。戦争や紛争の中では人は思い通りに生きられない。今はでも、戦争も終わって、いい事です。

---今一番力を入れて取り組んでいる事はありますか?
歌手になりたいんです。ラップの歌手。
---10年後の自分の姿を想像できますか? どうなっていたいとか
将来は世間でちょっとは知られたような人間になりたいですね。みんなに対して衣食住とか必要なものを、ちゃんとオーガナイズしてあげられるような人間です。
---仕事は何がしたいの?
歌手以外には、建設関係の親方にもなりたいと思っています。これから、ここの職業訓練学校の建築のコースに進むんです。

---これまでで最も尊敬できた大人について教えてください
目上の人はみんなですよ。俺より年上で、俺の身近にいる人はみんな尊敬しています。いろいろ相談に乗ってくれて、いろいろ言ってくれる大人には本当に感謝してます。例えば、先生とか校長先生ですよね。それに生徒でも、すごいなって思う奴はいますよ。
---あなたはどういう大人になりたいの?
自分がこれから暮らしていくそれぞれの場所で、誰に対しても礼儀正しく接する、そういう大人になりたいです。人を敬う心を持って、人と調和をはかっていかないといけないと思います。
(インタビュー : 2003年7月5日)

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